レポート

産業財メーカのサブスクリプション・エコノミーへの転換

2019/04/01

代表取締役副社長 立松博史

 多くの業界において、製品・サービス単体での差別化が困難になっており、モノとコトを組み合わせた顧客経験価値(CX:Customer Experience)を提供することで競争優位性を獲得することに関心が高まってきている。B2Cの世界では、多様化、複雑化する消費者ニーズに応えるために、製品・サービスの売り切り型から「モノとコト」を組み合わせてサブスクリプション型で提供するビジネスへの転換に取り組む企業が増加している。必要なモノを必要な時にだけ利用することを望んでいる消費者が拡大しているなかで、企業は顧客との新しいエンゲージメントを構築する必要性に直面しているのが背景にある。こうした取組みは、小売、金融などのサービス業という範疇で括られる業界や、製造業でも家電業界のように最終消費者を顧客とするB2Cの世界のものと理解されがちであるが、産業財の世界、即ちB2Bの世界においても重要な課題になっている。

 顧客である企業に対して、自社製品とサービスを組み合わせて、顧客が本当に求めている価値を見極めて、顧客が最も利用しやすい「価値パッケージ」にして提供し続けていくことが産業財の世界でも出現してきた。「価値パッケージ」を顧客企業にサブスクリプション型で継続的に提供するという新しいエンゲージメントが、競争優位を確立するための基盤として認識されるようになってきた。
 これまで、多くの産業財メーカにとって、サービスとは製品を売った後のアフターサービスでしかなかった。特に、日本では「サービス=無料」という意識が強く、手離れのいい製品売り切り型のビジネスモデルを最適化していくことに注力してきた。しかし、サービスから最も遠いと考えられていたB2Bの産業財メーカにとっても、サブスクリプション型によるビジネスモデルの構築が重要な経営課題になりつつある。その理由はいくつかある。

 新興国メーカの台頭により、製品自体で競争優位を維持できる期間が短期化しているとともに、製品機能での差別化が顧客認知されるほどの有意な差になりにくくなっているからである。そのため、モノの魅力にサービスも付加して「モノとコト」をパッケージで提供することで、顧客企業の真のニーズに迫り、結果的に自社の提供価値の範囲を拡大することが必要になっている。自社が提供している産業財という「モノ」の魅力に「コト」を加えることで、顧客が「モノ」の利用に関して支払っているオペレーションやメンテナンス等のコストまで自社で提供することで顧客にベネフィットを与える。これにより、競合の産業財メーカとの競争の土俵を変えることで差別化を図り、顧客を囲い込むことが可能になる。
 このケースで分かりやすいものとして、コマツの「スマートコンストラクション」があげられる。ダントツ商品で建機を販売してきた同社が、製品だけでの差別化が困難になってきたために築き上げたビジネスモデルである。建機やドローンなどを顧客が利用した成果として得られた工期短縮や様々なコスト削減の一部を、自社の報酬として定義して獲得するものである。これにより顧客との継続的な関係を維持するためにかかるコストをビジネスベースで正当化することが可能となる。このような継続利用型事業の重要性は、顧客の囲い込みに繋がるだけでなく、顧客の自社製品の利用状況や詳細なニーズを常時把握することが可能となり、そのナレッジが製品の改良・改善に繋がるだけでなく、新たな事業機会を発見することに繋がる。例えば、「利用価値を見える化することによる成果報酬型」、「自社製品をセカンダリーマーケットで売買」、「製品の運転状況から顧客へのファイナンスを提供」などである。

 このように、KDDIデジタルデザインでは、サブスクリプション型のプラットフォームの提供やIoTなどのデジタル技術を活用することで、顧客企業のビジネスモデル革新に取り組んでいる。多様なプレーヤとの協業により、産業界のイノベーションを推進していきたい。