レポート

FinTechにおける“社内共創”の課題

2019/07/17

パートナー 荒巻 奈留美

 金融業界は、法制度やレギュレーション、コンプラ、マーケットルール等の規制に囲まれている。それがゆえに参入障壁も高く、聖域と見なされてきた。しかし、近年のデジタル化の波を受けて状況は一変し、大きな変革の必要性に迫られている。
 マネーフォワードやFreee、KDDIのauフィナンシャルホールディングス設立や、多数のキャッシュレス決済事業者の出現のように、非金融のプレイヤーがなだれ込み、脚光を浴びる事例が紙面を賑わす。ユーザは、従来にはない魅力的なサービスに対し、大いなる共感を覚え、更なる発展に期待を寄せる。従来型の金融機関は、このような新規参入者に置き換えられ、存在感の低下を懸念する声も多い。

 金融機関側も手をこまねいているわけではない。チーフデジタルオフィサー(CDO)や、デジタル専担部署、コラボスペース・外部組織等の設置、各種ACCELERATORプログラムの開催等を進めながら、積極的にデジタル技術の活用に取り組む事例は多い。従来では考えられないような、異業種やスタートアップ企業との共創にも前向きに取り組んでいる。三菱UFJフィナンシャルグループの「Japan Digital Design」や、三井住友フィナンシャルにグループの「hoops link tokyo」の設立等、共創環境の整備も進み、これらの枠組を通して、具体的なソリューションの実現につなげている。

 このように、社外の企業と積極的な共創に取組む一方で、社内のデジタル化プロジェクト現場は異なる様相を呈しているようだ。複数組織が関わるプロジェクトは、合意形成に多くの時間を要す。デジタル専任組織は、ステークホルダー間の調整に腐心するも、当初のゴールには届かないケースが散見されている。
 数々の当局検査やトラブル等の歴史を乗り越えながら、作り上げた業務の考え方には、一日の長がある。その上に成り立つ事業部門も、昨今の潮流を受け、変革の必要性は重々認識しているが、いざ手元の業務に波が押し寄せると、リスクアラートが鳴り響いて推進を受け入れられないことも多い。社会インフラとしての重要責任を果たすために安心安全を常に追求する使命感が先に立つのだ。新しい顧客価値の創造も容易ではない。金融を取り巻く環境変化のなかで最も注意しなければならないものは何か、顧客とは誰か、何を求められているのかを問い続ける必要がある。顧客から見た金融は、預金・融資・投資の別なく一つのサービスである。しかし、金融機関側で、組織間での連携が滞り、縦割りで思考を重ねてしまっている場合、顧客が求めるサービスレベルに到達することは難しいと考えられる。
 経営からのトップダウンでデジタル変革のミッションを伝え、デジタル専任組織からはボトムアップでプロジェクトを提唱しても、同心円状から遠く離れた業務の現場では、受け止める準備が整っていないケースもある。日々の業務とデジタル化との間に、RPA以外の接点を感じない中、大胆な変革に対するイマジネーションは湧かない。働き方改革が推進される中、イノベーションを検討するリソースも見当たらない。このように事業部門を巻き込んだ社内共創が円滑ではない環境下では、金融機関として、真のデジタル変革を起こすのは容易ではない。

 外部からの脅威に打ち勝つためのデジタル変革だが、社内から見ると、一部によるクローズな活動に見えるケースは多い。社外における共創の推進と同様に、社内に対してもオープンで身近に感じられる仕掛けづくりが必要である。社内人材のデジタルマインドや知識力を把握し、適切な支援を行うのも一策である。デジタル関連の環境整備を行うことにより、社内の共創が円滑になることで、最新技術からのアプローチだけではなく、顧客が求めるものを追求した上でデジタルを活用することにより、真のCX(顧客経験価値Custmer Experience)向上が期待できる。
 KDDIデジタルデザインでもご紹介するように、デジタル力強化策の一つとして、全社のデジタルナレッジやマインド向上を促す人材育成プログラムが提供されている。既に実施しているであろう座学やトライアルプロジェクトの推進に加えて、デジタル体験を通じ、生きた知識を得て、実業務に応用の可能性を感じられるようなプログラムの導入もその一つである。また、全社に対象者を拡大したデジタル人材の発掘と育成も有用である。このような活動は、企業のカルチャー・トランスフォーメーションにも通じ、顧客だけでなく、EX(従業員経験価値 Employee Experience)向上という効果にもつながる。
これまでの変革の手は緩めず、このような施策を活用して、社内全体の知識の底上げを図り、バランスを取りながら、変革力向上を図ってみてはいかがだろうか。